
〇地方の超音波検査
超音波検査の担い手不足は地方にとってはとても深刻です。
都市部では人口に比例して多くの臨床検査技師や放射線技師、看護師がいて医師とともに超音波検査に従事していることと思います。
しかし、地方では人口が少ないため医療従事者も少なく、少ない人員で検査を行っている場合が多いです。
私は鳥取、島根と山陰地方ばかりですが、いろいろな病院を転々とした経験をもとに地方の超音波検査の現状について思いをはせることが多くそこで考えたことを記事にしておこうと思います。
※臨床検査技師が超音波検査を担うケースで想定します。
〇地方の総合病院では超音波検査に専従できない
大学病院で診療科専属でもない限り、基本的に地方では超音波検査を行いながら別の業務も担うことが多いです。それが同じ【生理検査】というくくりの中であることもあれば、【微生物】や【検体検査】など検体系の検査と掛け持ちで業務をまわす体制のことが多いです。
〇指導がうまく成り立たない
掛け持ちしてやっと1日の業務が成り立つような体制であるがために、初学者はすべての検査になれるのに精一杯、教えるはずの先輩にあたる技師も自身の業務をこなすので精一杯でうまく指導ができない状況があります。
また、超音波検査を学ぶためにはどうしても被験者をしてくれる職員を探さねばなりません。被験者を検査室内から頼もうと思うと、業務中には3人がトレーニングに入ってしまい業務が滞ることになります。
また、必ずしも各病院にベテランの超音波検査ができる臨床検査技師がいるとは限りません。指導してくれる専門医までいてくれるとしたらそれはかなり整った環境であり、なかなかそういった恵まれた環境で超音波検査を学ぶということが難しいのが現状だと思います。
〇各病院での育成は限界ならば地域で育ててはどうか?
各病院で育成というのは人員的にも技術的にも難しいのであれば、地域で、私のようなフリーランスの技師を活用して育成してはどうかというのが私の考えです。
例えば〇曜日の〇時~〇時はA技師が病院に来て指導してくれるといった契約を結び、その間にしっかりトレーニングを積める環境を作るのはどうかと考えます。
実際に私はとあるクリニックでは毎週1日だけ契約しており、超音波検査に従事しつつ指導にあたっています。
そうすることで、超音波検査ができる技師がその病院にいない、いても指導の余力がないという問題点を解決できます。
つまりは指導者の外注です。
これが叶わない問題点としては以下のことを感じています。
・病院経営陣からの理解を得られない
臨床からの要望として「超音波検査ができるようにしてほしい!件数を増やしてほしい!」「腹部領域だけではなく下肢静脈エコーもやってほしい!」と強く訴えられることは検査部に所属していると多く耳にすることです。
当然、検査部としてはそれをかなえようと様々なことを考えるわけですが上述の問題点に遭遇し、どうしようもなく【即戦力の求人】だけ出して誰も来ない…と嘆くわけです。
その求人、みたことはあるでしょうか?
即戦力を求めているわりには待遇面がいまいちであることが多いと思います。
実際に私もフリーランスとして契約したとき、前例がないから病院の取り決めた条件で契約ということになり、時給1100円で超音波検査を行っていたとがあります。
都会の大学生のアルバイトくらいの給与ですね。
とにかく前例がないことを大きな病院ほどとりあってくれません。
また病院規定の求人だと生活がかかっている技術を持った求職者はより良い求人を探して都市部にでてしまう可能性が高まります。
・フリーランスのその人の実力がわからない
とはいえ病院経営陣の考えも理解できるところがあります。
超音波できます!と言われてもその人の実力が伴っていなければ好待遇で契約するわけにはいきません。実際に面接などをしたところで働いてみてもらって超音波がわかる医師や同じ臨床検査技師でなければ実力がわからないことも多々あります。
実力を保証するひとつのツールとして【超音波検査士】の資格があります。
が、それをもって大丈夫とするには判断材料が足りないというのが経営陣の考えではないでしょうか?
ならばその個人との契約も交渉によって行い、病院側が不適格と判断した場合は契約解除ができるようにしておくのも良いかと思います。
病院職員として契約するとどうしても簡単に解除できないですが、個人契約ならお互いに解除の交渉がしやすい面があるかと。
フリーランスを活用するには
・そもそもフリーランスがその地域にいること。
・その人が検査することだけでなく指導に力を入れる考えがあること。
・各病院との契約は交渉することでお互いに納得いく条件であること
が前提条件となると考えますが、とにかくモデルケースや前例がないと物事が進みません。
私の活動がひとつの前例になればよいなと思っています。
〇研修ができる検査メインの施設が各都道府県にできないか
どうしたら少しでも解決に向かうのか、私の考えをつづってみようと思います。
現状の問題点として
・現場の人員不足
・新卒、超音波検査未経験者の指導者不足
があり、さらにはちょうど2024年現在は
・多くのベテラン層が定年の時期
ということも挙げられます。
ベテランの中には再任用などで今までよりも少ない給与でも現場に残ってくれる方もいると思いますが、正直なところ生活的にも身体的にも大変なことだと思います。
しかし今まで培ってきた技術を後進に伝えていただかないことはもったいない。
それも特定の病院だけというのももったいない。
と常々考えておりました。
そこで思いついたのが研修ができる検査メインの施設です。
あらかじめ受診者さんには研修もかねて指導を行いながら検査することを伝え、それを受け入れられる方が受診することにしておきます。
・検査者側のメリット
ベテランの方々には指導者兼検査者としてその施設に勤めていただき、新卒や超音波検査を学びたい方も一度、この施設の職員として勤めながら学び、給与ももらって生活を維持、できるようになったころに地域の好きな病院に【超音波検査の経験あり!】と就職していくのです。施設と病院で提携できれば上述の病院側の「実力がわからない問題」も解決できるのではないかと思います。
さらにベテランの方は自身の生活の無理ない範囲で勤務を調整してもらい、新卒や学びたい人は他の業務とのバランスを考えることなく経験を積むことができます。
(臨床検査技師だけではできませんので、医師や看護師にも協力してもらう必要があります。)
・地域住民のメリット
病院のように有症状であったり、診療としてだったりではなく、あくまで検体検査における検査センターのような立ち位置です。
完全な健診のように胃カメラもセットとか、レントゲンもセットとかではなく、セットで全部受けるのは抵抗があるけど超音波検査を受けておきたいという地域住民がふらっと、最近話題の【ちょこザップ】みたいな形で身近に検査を感じられるのも良いのではないかと考えます。
近年は脂肪肝に対する注目が高まっており、ちょこザップのような運動を気軽にといった健康増進を頑張ったときのひとつのモチベーション維持や、最近体重増えたけど肝臓に脂肪がついてないかな?と思ったときに気軽に検査を受けられるのは良いのではないかと思います。
・他のメリット
超音波検査メインで語りましたが、これは他のあらゆる検査でも適応できないかと思っています。
ある意味検査センターであるSRLやBMLなどに生理検査を混ぜて研修施設としても成り立たせようという考えです。
健診で行うような採血項目の検査であればこの施設で行い、その検査機器の取り扱いや精度管理を臨床検査技師は学べるのではないかと思います。
最終的には各病院で人員が不足した場合、この施設から派遣のような形でサポートができるとより良いと思っています。そうすると転職サポートなどで生じる問題のひとつであるミスマッチングも少なくて済みますし、すぐに代替の人員を確保可能、提携しているのなら紹介料などの煩雑な処理も不要となります。
地域住民にとって検査は遠い存在だったり、受けたくないものだったりします。
まず思い浮かべるのは「採血」で針をさされる痛さというのもあります。
そしてそれを行う意味というのもあまりじっくり話されることがないため余計に不信感を募られせてしまいます。
もっと検査を身近に。自分の体調管理に検査を有効活用してもらう普及活動もできるのではないか思います。
今はSNSで様々なインフルエンサーがいて、よくわからない健康法を喧伝していたりして被害にあう方もいます。よくSNS上で戦う医療者もいますが、SNS上だとあまり良い効果をもたらせておらず逆に不信を覚える結果になっていることもあります。
それらに対抗して医療を、検査をもっと頼れる存在にしてもらう施設があったらなという私の願望を叶えるものにもなりそうだと思っています。
・問題点
地域住民、地域の各病院に受け入れられるのか。
地域住民からの需要は本当にあるのか。
収益性を保ち採算があわなければ維持できない。
派遣には法律的な問題がある(とはいえ大学医師が各総合病院に出向いていることを考えるに施設同士での契約があればできる?)
〇さいごに
考えていることの一部で言葉にできそうなところをまとめてみました。
まだ私の中でも頭の中でこうだったらよさそうだなということを練っているところなので分かりにくい部分も考えが未熟すぎる部分も多々あったと思います。
また、荒唐無稽なことで絵空事、突っ込みどころが満載!と思われた方もいると思います。
しかし、何か奇跡でも起きない限り日本はこれからさらに人口減少かつ高齢化が進みます。
医療の体制に限らずあらゆる文化は東京や大阪などの都市部で先行して徐々に地方に波及していくことが多いと思いますが、都市部が危機感を覚えて何かの施策を本気で打つ頃にはすでに人口減少や高齢化が進んでいた地域はその施策を実行することもできないほどマンパワーがなくなっているだろうと想定します。
つまり、都市部の動きをまって何かする、大きな組織がやっと重い腰をあげて動くころにはすべてが後の祭りなんてこともあり得ると思っています。
だからこそ地方が先んじて何かを行う必要があると思います。それはこれから都市部が直面する前に試行錯誤して様々な前例や経験を残しておくという意味でも都市部の未来にもつながるのではないかと思います。
とはいえ、地方ではすでに人が少ないからこそビジネス的な観点からはターゲットにしにくいところが大きいです。また、奥ゆかしい人が多く、新しいことには慎重、それは医療従事者も同様です。まず様子をみてしまいます。
私がハンズオンセミナーを山陰で行う企画を立てて需要調査を行ってもだれも反応をしてくれなかったり。これが企業だった場合は「あ、この地域でやっても利益にならないからやめておこう、やっぱり岡山とか広島かな。大阪だと人が集まるな!」となってしまいます。
このあたりも踏まえて考えると、頭で考えるのは自由だけれども実際に行うとなるとハードルが高すぎるというのが現実だなと感じます。
何が良い方向に向かうきっかけになるかわからないので、私は、今私ができることをコツコツとやっていこうと思います。
だらだらと長い文章になってしまいましたが、お付き合いいただきありがとうございました。
Comments