みなさんこんにちは。
2024年5月~2024年6月の間に3回にわけて
2色覚の臨床検査技師とスーパーソニック(超音波)ワールド①~2色覚の当事者が、超音波検査に出会うまで~
というタイトルで私の経験を川端裕人先生に記事にしていただきました。
詳しい内容は記事を読んでいただけたら嬉しいです。
私の関わった記事以外にも2色覚はどんな色の世界なのかや色覚検査の問題についての記事があります。
検査の問題と聞くと、私も臨床検査技師という検査を生業にするものとしてとても重要なことであり、考えなければならないことだということを感じます。
〇インタビューを経て、私の1型2色覚について振り返る
私は小学生のときの一斉検査でひっかかったことからさまざまな体験をしました。
その中で私の将来を真剣に考えてくれる眼科医に出会えたのは近年になってからでした。
大学でもとある教授に「臨床検査技師になんかなれない」と言われたときの葛藤は大きかったものです。
検査することで異常となったのち、医師や人を導く立場の教師が厳しい言葉だけを投げかけ、当事者の将来を閉ざそうとしたことは事実です。
現在は色覚による職業制限はだいぶ緩和されているようです。実際に臨床検査技師の欠格事由に「色覚」の項目はありません。
にもかかわらず、一人目の眼科医は「何にもなれない」、大学教授は「臨床検査技師になれない」と私に言ったのです。
あえて好意的にその言葉の裏を考えると、困る場面がでてくるということかもしれません。
私は「グラム染色」という細菌検査で必須となる染色法で染めた細菌を顕微鏡でみることが不得手です。それは技術的にではなく色覚により正常とされる人たちと見え方がことなるからです。どうしても紫色とピンク色が混同してみえるときがあり、さらには逆に判定するときがあったのです。
すべての細菌が典型的な紫、典型的なピンクに染まってくれれば良いのですが中には淡い色に染まるものもいて、判断ができなくなってしまうのです。
(このあたりは記事にもあるのでぜひご一読を!)
こういった困りごとが生じるから「臨床検査技師にはなれない!」と結論付けたのかもしれません。
しかし、私は現在、臨床検査技師として働けています。超音波検査という白黒を基本とする世界で「超音波検査士」という学会認定の資格もとっています。
1型2色覚だからこそ、むしろ超音波検査を得意としているのではないかと自分で思うくらいです。
一人目の眼科医はすべての仕事に色覚が最重要と思っていたのかもしれません。
大学教授も「臨床検査技師」という職種についても考えが浅く、色の判定が人と違うことが欠格だと思ったのかもしれません。
〇別の視点から考えてみる
1型2色覚というのはデメリットでしかないのでしょうか?
人と違う=デメリット とどうしても考えてしまいがちですが、実は人と違うことはその能力を活かせる場面があることもあります。
私【超音波検査が得意と感じている】と先述しました。
それは通常の人よりも物体の輪郭や白黒の濃淡については鋭敏に察知している気がしているからです。そのため肝臓の中に淡い腫瘤像があったときに補足しやすいと感じています。
これには超音波検査の経験数や視力など他の要素も多分に絡むので証明は難しいです。
しかし文献的にデータのある能力として【暗所視】があります。
In conclusion, scotopic vision is enhanced in colourblinds, which could explain the maintenance of this colour vision polymorphism in human populations. Viewed in this way, colour blindness is not necessarily a vision deficiency, but rather a different evolutionary solution to the trade-off between photopic and scotopic vision. This trade-off can potentially help to generate a more general understanding of the astounding interspecific variation in the ability to see colours. Scotopic vision in colour-blinds, S. Verhulst a, F.W. Maes b,Vision Research 38 (1998) 3387–3390
これをDeepL翻訳にかけると 【結論として、色覚異常者では暗視力が増強される。色覚多型が維持されていることを説明できるだろう。このように考えると、色覚異常は必ずしも視力の欠陥ではなく、むしろ進化的に異なるものである。視力の欠乏ではなく、むしろ進化的に異なる解決策である。このトレードオフは、次のようなことを理解するのに役立つ可能性がある。色を見る能力における驚くべき種間変異をより一般的に理解するのに役立つ可能性がある。】となります。
暗所視、つまり暗いところでの視力を保つことを得手としており、こういった経験は確かに私にもあります。
夜道で他の人が何もみえないといった状況でもある程度は位置を把握して進む方向がわかったり、停電時にすぐに暗順応するのか落ち着いて対応できたり。
個人の体験はなかなか一般化できるものではないとは思いますが、その体験の裏にはもしかしたら1型2色覚だからこその経験が潜んでいるかもしれません。
〇他の特性にもこの考えが応用できるかもしれない
一個人のもつすべての特性がすべて「正常」とされる範囲にはいるという人はそんなに多くはないのではないでしょうか?
そしてそれぞれの特性にメリット・デメリットがあります。
簡単な例で言うと「身長」もそのひとつです。
背が高い人、低い人いますよね。
私は高い方なので、高いところに手が届いたり、満員電車内でも頭がひとつ上にぬける分息がしやすかったりというメリットがあります。しかし、世間一般のあらゆるものが私にとっては小さいです。机も低いですので常に少し首をまげて作業しますので首回りがいつも凝っています。頭上にも注意しないと、前の人が普通に通過したから大丈夫と思って続くと頭を打ったりもします。
ひとつの特性はメリット・デメリットの表裏一体だと思います。
特性の中には「デメリット」ばかりが世間でも目立っていて、その特性を持つ人もデメリットばかりを感じてしまいがちですが、実はメリットにできる部分があるということもあるのではないでしょうか?私は「色覚」の特性でそれを感じています。
配られたカードで勝負するしかないのさ スヌーピー
SNSなどでスヌーピーという作品の中であったというこのセリフが目に入ることがありました。当時は配られたカードが悪くても我慢してそれを使っていくしかないみたいな意味でもあるのかと考えていましたが、きっと、配られたカードを有効活用しようという意味としてもとらえられると思います。
そして私たち人間はカードを増やすことができます。
それは人とのつながりであったり、資格取得であったり、本を読んだり、旅をしたりで増やせるのではないでしょうか?
カードをたとえ話にしてみると、私は遊戯王というカードゲームが今でも好きでプレイしています。
カードの中にはどう考えてもデメリット、つまり相手を優位にしてしまうような効果を持つカードがあります。当然使いにくいのでデッキに採用することはないようなものですが、世の中にはそんなデメリットしかないカードを有効活用しようというプレイヤーたちがいます。YouTubeの遊戯王マスターデュエルプレイ動画を探すとみることができるのですが、きっとこの情熱を自身の特性を活かす方に振ると同じようにできるのではないかなと思っています。
〇インタビュー中の新たな気づき
インタビューの内容とは別に話をしているときに、その発想はなかったなと感じたことが
「現在の正常とされる色覚の人たちよりも1型2色覚の人が多数派でグラム染色を作っていたら今の方法と異なっていたか」という問でした。
これはたしかにと思いました。
もしかしたら1型2色覚の人が開発していたら、紫とピンクという私にとっては誤認しやすい色ではなく、赤と青、黒と黄などかけ離れた色になっていたかもしれません。
(実際に抗酸菌を染めるチールネルゼン染色は赤と青に染め分けます。)
今ある技術は「平均」や「多数派」が作ったものが多く、多数派にとっては利便性の高いことが多いように思います。
だからといって、そのやり方を変えろというのはきっと少数派の横暴です。多数派は利便性が高いがゆえに問題点や改善点に気づきにくいかもしれませんし、今後の世界の技術のアップデート時に困ってしまうかもしれません。多数派が常に多数派でいられるわけでもなく、別の特性を持つ人が多くなってるくるかもしれません。そんなときに別の視点で意見を述べられるというのも、少し「多数派」とは異なる特性をもった者のメリットではないでしょうか?
色覚への理解が高まったことは私も身をもって経験してきたことですが、今でも負のスティグマで苦しんでいる人がいるかもしれません。
私が小学生や大学で投げかけられた言葉は、人の心を容易に折ってしまう力があるものだと思います。
私の経験が誰かの参考になっていれば良いなと思います。
服部博明
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